日本では毎年20~30件の航空事故(重大インシデントを含む)が発生しており、このうちの半数以上をヘリコプタや小型飛行機が締めています。これらヘリコプタや小型飛行機は、ジェネラルアビエーション(以下、GAと呼びます)という名称で区分されており、主に遭難救助、防災、写真撮影、航空測量、訓練といった目的で飛行しています。GA機は、その多くが低高度での運航を伴うため、僅かな判断ミスや操縦ミスが事故につながりやすいという特徴があります。近年発生した事故事例においても、地上と接触した例が顕著に見受けられます。
日本では、2007年時点で2672機の航空機が登録されており、このうちGA機は約1500機、事故率は登録数の1.0%程度となっています。(GA機 = [Airplane Piston/Turboprop] + [Helicopter] として分類) 日本は世界有数のヘリコプタ保有国であり、ドクターヘリの配備拡充などによって、今後ヘリコプタの登録が増えると予想されます。日本よりも登録機数が多い諸外国では、事故件数も相対的に多くなっていることから、現時点で事故率を低減するための方策を講じなければ、登録機の増加とともに事故件数も増加していくことが懸念されます。
Year | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 | 2007 |
Avr. 5 yr. |
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Airplane Piston/Turboprop |
(a) Nr. of Accident | 14 | 15 | 12 | 6 | 6 | 10.6 |
(b) Nr. of Registration | 753 | 740 | 722 | 719 | 721 | 731 | |
(c) Accident Rate = (a) / (b) [%] | 1.9 | 2.0 | 1.7 | 0.8 | 0.8 | 1.5 | |
Airplane Jet (Airline) |
(a) Nr. of Accident | 7 | 8 | 9 | 4 | 11 | 7.8 |
(b) Nr. of Registration | 474 | 474 | 485 | 500 | 509 | 488 | |
(c) Accident Rate = (a) / (b) [%] | 1.5 | 1.7 | 1.9 | 0.8 | 2.2 | 1.6 | |
Helicopter | (a) Nr. of Accident | 2 | 8 | 9 | 2 | 8 | 5.8 |
(b) Nr. of Registration | 821 | 801 | 790 | 778 | 773 | 793 | |
(c) Accident Rate = (a) / (b) [%] | 0.2 | 1.0 | 1.1 | 0.3 | 1.0 | 0.7 | |
Glider | (a) Nr. of Accident | 3 | 3 | 7 | 5 | 5 | 4.6 |
(b) Nr. of Registration | 649 | 658 | 659 | 665 | 666 | 659 | |
(c) Accident Rate = (a) / (b) [%] | 0.5 | 0.5 | 1.1 | 0.8 | 0.8 | 0.7 | |
Total Nr. of Accident | 26 | 34 | 37 | 17 | 30 | 28.8 | |
Total Nr. of Registration | 2697 | 2673 | 2656 | 2662 | 2669 | 2671.4 | |
Total Accident Rate [%] | 1.0 | 1.3 | 1.4 | 0.6 | 1.1 | 1.1 |
アメリカでは、特に救難や救急患者搬送をミッションとするヘリコプタの事故がおびただしく、毎年何十人もの方が亡くなっています。遭難者や救急患者の救助に行って自らが命を落としてしまうという悲劇が繰り返されているわけですが、この事態を改善すべく、2005年に国際ヘリコプタ安全チーム(IHST:International Helicopter Safety Team)が設立されました。IHSTはアメリカ連邦航空局や機体メーカーなどが中心となって設立された団体で、2016年までに全ヘリコプタの事故率を80%低減するという目標のもと、安全管理システム(SMS)の導入、パイロットトレーニングの改善、フライトデータモニタリングシステムの導入といったいくつかの骨子を定め、日々事故低減に向けた努力を行っています。
IHSTが定めた事故率を80%低減するための具体的方策の中に、フライトデータモニタリングという項目がありますが、これは従来からエアラインで行われている飛行データ解析(以下、FDA:Flight Data Analysisと呼びます)と同じコンセプトで策定されたプログラムで、日常運航におけるパイロットの操縦傾向をデジタルデータによって把握し、できるだけ早い段階でリスク要因を排除しようというものです。エアラインで実施されている解析業務は、元々、ICAO(国際民間航空機関)で制定された規約に基づいて開発されたもので、「パイロットスキルまたは整備及び設計を改善させる目的で、通常運航時に記録されたデータを収集して解析するためのプログラム」と定義されています。エアライン各社では飛行記録集積装置に記録された飛行データをベースに、日常運航のリスク分析を行っていますが、GA機の場合はこのような装置を搭載していないため、別途、機体の運動状態などを記録するデータ収録装置を搭載し、取得したデータを専用のソフトウェアで日常的に解析できるようにする必要があります。このデータ収録装置と解析用ソフトウェアから構築されたシステムをフライトデータモニタリングシステム(以下、FDMシステムと呼びます)と呼び、エアラインのFDAと区別しています。FDMシステムは現在普及段階にあり、世界的なヘリコプタ運航会社では、FDMシステムの導入を含む総合的な安全対策によって事故率を10分の1まで低減した実績が報告されています。このような大きな成果を受け、他の運航会社も順次導入を進めています。
パイロットは日々の運航業務で遭遇する危険要素について、状況分析を行って次回のフライトに役立てるようにしています。しかし、パイロット自身が気づかないような潜在リスクについては、第三者から指摘されない限り、日々の運航に反映させることが難しく、インシデントにつながる可能性があります。FDMシステムのひとつの目的は、このような潜在リスクを抽出し、次のフライトに役立てることにあります。機体に搭載されたデータ収録装置によって機体の運動状態をデジタルデータとして取得し、それらのデータを飛行後に専用のソフトウェアで解析します。安全運航にはある程度の幅があり、その幅の中で安全側で飛行しているケースとそうでないケースがあるため、基準値と比較することで自分の操縦を客観的に把握することができます。
※米国Appareo Systems社フライトデータモニタリングシステム取り扱いに関するお知らせ。>>FDMシステム